ただのカルシウム日記 2
- 2005/05/23
- 15:18
2日目 ~ただの白い物体
入院経験は赤ん坊の頃を除いて初めてだと思う。
遠い記憶に病院に泊まった映像が残っているが、実際物心ついてから大きな病気をした事は無いので、赤ん坊の頃の記憶が少し残っているのだったら面白い。
うす暗い病院の天井と階段。なぜか映像に残っている。
朝10時頃病室に戻る。遠い記憶の映像とは違って新しくて明るい病室だ。
同室のSさんも家から戻っていた。彼も今日親知らずを抜くのだ。
手術は3時から。それまでに昨日読みかけていたミステリ「倒錯のロンド(折原一)」を読了。面白かった。そして続けて「殺人志願者(岡嶋二人)」を読了。面白かったがハッピーエンドは苦手だ。
入院する事になって図書館から本を結構借りて来た。本当に読みたい本(カフカや安部公房)はバッドトリップしそうで元気じゃないと読めないような気がしたので、ミステリばかり持ち込んだ。
ついに手術の時間。一足先に手術を終えたSさんが病室に戻ってきた。医師と普通に話をしているので、結構平気なのかと思ったが、表情を見るとしんどそうだった。その表情を見て心配になるが、Sさんがこっちに向かってGood Luckとばかりに手を上げた。僕は苦笑した。
看護士さんが台に寝かせられた僕を手術室へ運んでくれる。移り変わる天井を見ながら、なんかドラマみたいだなあと思った。
手術の際にCDをかけてくれると聞いていたので、バッハのCD-Rを渡す。
イヤフォンやヘッドフォンなどを付けて聞かせてくれるのかと思いきや、単に手術室でかけるだけだった。バッハのCDがかかる前は、手術室にはジュディマリがかかっていた。
先生が「おーバッハか。では格調高くやります」と言った。
先生、ブラックジャックみたいにお願いしますと心の中で言った。
++
麻酔を何本か打たれ、簡単に抜ける歯から抜かれる。ドリルで切断したり、破砕している音が聞こえるが、何かするたびに「今切断してます」「砕きます」などと説明してくれるので不安は無い。しかし、手術室に流れるバッハの音量は非常に小さく、結局切断する音や破砕する音ばかり聞こえる。
ギギャギィゲギghギkkkkkkギギギギィィィィィイイイイ
ゲガゴゴッゴゴゴグギィィャkkykykykykィィァアアアア
僕は、自分が「ノイズ」と呼ばれるジャンルの音楽も聞く人間である事に感謝した。
++
1時間の手術を終え病室へ戻り、ガーゼを噛んで止血し、点滴をする。流れる血が喉に溜まる。本当は飲まない方がいいらしいが、飲んでしまう。
下あごや唇が2倍くらいになっている感じがする。痛みはどうですか?と聞かれるがうまく言葉にならない。
「ふぁい」「らいじょうぶれす」
手で触ると舌があさっての方向を向いているのがわかった。
点滴を打たれる。1時間ほどすると医師が来て、「点滴遅いなあ。早めようか」と言い、点滴のスピードを早める。血管がジンジンして、痛きもちいい。麻酔も効いててボーっときもちいい。
2時間経ってようやく血がほとんど止まる。
麻酔も切れ始めていて、激しい痛みが襲ってきたので痛み止めを飲む。
抜いた歯を見せてもらう。
シャーレの中で、白い物体がゴロゴロとしていた。
++
ようやく痛みがやわらぎ、食事(流動食)をしはじめたのは午後7時半くらいだった。
僕のベッドは窓際で夜景が綺麗だった。僕が生まれた町が見える。
昔はコンビニも無い町で真っ暗だったが最近はビルやマンションが多い。
不思議な感じを味わいながら、食事を終えた。半分しか食えなかった。
++
しかし何もする気が起こらない。
頭がボーっとする。痛みも少しある。
立ってトイレにも行けるのだが、動く気にもならない。
消灯時間も過ぎ、眠らなければならないのだが、ぐっすり寝る事が出来ない。
僕はいつも右脇腹を下にして小さくなって寝る。子どもの頃からの習慣だ。仰向けでまっすぐ寝る事が出来ない。
しかし、右向きになると、どうしても頬が枕に押し付けられ、気持ち悪い。
左向きにして寝ると、患部から伝ってきた血が鼻から出てくる。
結局背中が痛くなるのを我慢して仰向けでずっと過ごした。
あまりに眠れないのでわずかな光の中で、東海林さだお×赤瀬川原平の「軽老モーロー対談」を読む。
モーローとした気分に最適だった。
その日は30分寝て1時間起きる、その繰り返しだった。
入院経験は赤ん坊の頃を除いて初めてだと思う。
遠い記憶に病院に泊まった映像が残っているが、実際物心ついてから大きな病気をした事は無いので、赤ん坊の頃の記憶が少し残っているのだったら面白い。
うす暗い病院の天井と階段。なぜか映像に残っている。
朝10時頃病室に戻る。遠い記憶の映像とは違って新しくて明るい病室だ。
同室のSさんも家から戻っていた。彼も今日親知らずを抜くのだ。
手術は3時から。それまでに昨日読みかけていたミステリ「倒錯のロンド(折原一)」を読了。面白かった。そして続けて「殺人志願者(岡嶋二人)」を読了。面白かったがハッピーエンドは苦手だ。
入院する事になって図書館から本を結構借りて来た。本当に読みたい本(カフカや安部公房)はバッドトリップしそうで元気じゃないと読めないような気がしたので、ミステリばかり持ち込んだ。
ついに手術の時間。一足先に手術を終えたSさんが病室に戻ってきた。医師と普通に話をしているので、結構平気なのかと思ったが、表情を見るとしんどそうだった。その表情を見て心配になるが、Sさんがこっちに向かってGood Luckとばかりに手を上げた。僕は苦笑した。
看護士さんが台に寝かせられた僕を手術室へ運んでくれる。移り変わる天井を見ながら、なんかドラマみたいだなあと思った。
手術の際にCDをかけてくれると聞いていたので、バッハのCD-Rを渡す。
イヤフォンやヘッドフォンなどを付けて聞かせてくれるのかと思いきや、単に手術室でかけるだけだった。バッハのCDがかかる前は、手術室にはジュディマリがかかっていた。
先生が「おーバッハか。では格調高くやります」と言った。
先生、ブラックジャックみたいにお願いしますと心の中で言った。
++
麻酔を何本か打たれ、簡単に抜ける歯から抜かれる。ドリルで切断したり、破砕している音が聞こえるが、何かするたびに「今切断してます」「砕きます」などと説明してくれるので不安は無い。しかし、手術室に流れるバッハの音量は非常に小さく、結局切断する音や破砕する音ばかり聞こえる。
ギギャギィゲギghギkkkkkkギギギギィィィィィイイイイ
ゲガゴゴッゴゴゴグギィィャkkykykykykィィァアアアア
僕は、自分が「ノイズ」と呼ばれるジャンルの音楽も聞く人間である事に感謝した。
++
1時間の手術を終え病室へ戻り、ガーゼを噛んで止血し、点滴をする。流れる血が喉に溜まる。本当は飲まない方がいいらしいが、飲んでしまう。
下あごや唇が2倍くらいになっている感じがする。痛みはどうですか?と聞かれるがうまく言葉にならない。
「ふぁい」「らいじょうぶれす」
手で触ると舌があさっての方向を向いているのがわかった。
点滴を打たれる。1時間ほどすると医師が来て、「点滴遅いなあ。早めようか」と言い、点滴のスピードを早める。血管がジンジンして、痛きもちいい。麻酔も効いててボーっときもちいい。
2時間経ってようやく血がほとんど止まる。
麻酔も切れ始めていて、激しい痛みが襲ってきたので痛み止めを飲む。
抜いた歯を見せてもらう。
シャーレの中で、白い物体がゴロゴロとしていた。
++
ようやく痛みがやわらぎ、食事(流動食)をしはじめたのは午後7時半くらいだった。
僕のベッドは窓際で夜景が綺麗だった。僕が生まれた町が見える。
昔はコンビニも無い町で真っ暗だったが最近はビルやマンションが多い。
不思議な感じを味わいながら、食事を終えた。半分しか食えなかった。
++
しかし何もする気が起こらない。
頭がボーっとする。痛みも少しある。
立ってトイレにも行けるのだが、動く気にもならない。
消灯時間も過ぎ、眠らなければならないのだが、ぐっすり寝る事が出来ない。
僕はいつも右脇腹を下にして小さくなって寝る。子どもの頃からの習慣だ。仰向けでまっすぐ寝る事が出来ない。
しかし、右向きになると、どうしても頬が枕に押し付けられ、気持ち悪い。
左向きにして寝ると、患部から伝ってきた血が鼻から出てくる。
結局背中が痛くなるのを我慢して仰向けでずっと過ごした。
あまりに眠れないのでわずかな光の中で、東海林さだお×赤瀬川原平の「軽老モーロー対談」を読む。
モーローとした気分に最適だった。
その日は30分寝て1時間起きる、その繰り返しだった。
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