辞書連想 第七回 「葉」
は【葉】・・・
維管束植物の基本器官の一。枝や茎につき、主として同化・呼吸作用を行う。多様な変態を示し、機能や形態によって子葉・普通葉・包葉・鱗片(りんぺん)葉・花葉などに分ける。普通葉の形態は種によって異なり、分類上の手がかりとされる。
「―が茂る」
(初めての方は、本編の前に辞書連想「はじめに」を読んでください)
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
まったく最近の若者は、何を考えているのかわからない。
仕事終わりに、たまに部下を誘って呑みに行こうとするのだが、絶対については来ない。そんなに俺は話がわからないようなオヤジだと思われているのだろうか。
部下たちの多くは、すこし注意しただけで機嫌を損ねる。この前も、休憩時間がとっくに終わっているのに屋上で居眠りしていたので注意したら、そいつは次の日会社を辞めてしまった。
こんな不思議な事もあった。朝、会社に向かう途中の公園で、スーツを着た若者がボーっと太陽の方を見ている。何を考えているのだろうと思って少し気になったが、時間も無かったのでその時は無視した。しかしその帰り道、彼は朝と同じ体勢のままでそこに立っていたのである。
あいつらはまったく俺の理解を超えている。本当に俺と同じ人間なのだろうか。いや、彼らこそ新人類と言うやつかもしれない。俺たちも若い頃は大人たちにそう言われたものだが、その俺たちが見ても突然変異としか思えない。何より、彼らの全身が「緑色」だという事がそれを表している。
++
体に葉緑体を持った人間が生まれたのは今から20年ほど前だった。生まれながらにして、手のひらが少し緑がかっている事以外、他の乳児と何ら変わりなかったが、よく調べてみると、その緑色は植物と同じ「葉緑体」だという事がわかった。そして、同じような子どもが全国で同時期に何百人と生まれたことから、一時期マスコミが「緑色人種誕生」と騒ぎたて、差別的な状況に発展しそうにもなった。しかし、生活には全く支障がない私たちと同じ人間であり、差別を撤廃しようとする団体の運動のおかげもあって、世間の関心は次第に薄れていった。
しかしだ。彼らは大人になって、顔から足の先まですっかり緑になってしまった。最初は手のひらだけに存在した葉緑体が増え始め、ついには全身に広がったのだ。その姿は巨大な植物の茎としか言いようが無かった。
そして最近、彼らの姿がよく目立つようになっていた。実のところ、毎年、万単位で葉緑体を持った人間は生まれていたのだ。しかし、我が子が差別されてはいけないからと、親がひた隠しにして来たようである。当の彼らも、昔なら手のひらさえ隠していればよかったのだが、全身まで広がっては隠し様もなく、今は堂々と自分の緑をさらして歩いている。
そして今年に入り、彼らの出生率は俺たちを上回った。
++
西暦2080年
この頃になって、彼らの生態が我々と違う事が判明してきた。
まず、彼らは夜行動できない。どんなに緊急の仕事があっても、残業せずに帰ってしまう。かといって、どこかへ遊びに行くわけではなく、家に帰って寝るのだという。うちの部下だけが特別変わっているわけでもなかったのだ。
そして、食べ物も変わっている。まず肉を食わない。基本的にベジタリアンだが、一週間何も食わずに水しか飲まない時があるという。
そして、怠け者である。俺たちは、仕事をして賃金を得る事でなんとか飯を食えているのだが、彼らには労働意欲が無い。まるで金など必要ないとでも言っているかのように簡単に会社を休む。会社では休憩時間が終わっても仕事になかなか戻ってこなかったりする怠けぶりだ。
俺たちはいつのまにか、ふたたび彼らを差別するようになっていた。
白人も黒人も黄色人種も緑人を生んでいたが、
白人も黒人も黄色人種も彼らを差別するようになっていた。
怠け者で、働くのが嫌いで、日向ぼっこが大好きな緑色人種たちを・・・。
++
西暦2090年
俺はもうすぐ定年を迎える。これからは悠悠自適の生活が待っているはずなのだが、どうも心がはずまない。この緑人ばかりの世界で、俺はどうやって生きていけばいいのか。
緑人の数は増えに増えて、人類の半数以上になっていた。もうすでに差別は無かった。多数の側についた緑人は温和な性格で、人を傷つける事などなかったのだ。
しかし、俺たちにとっては、肩身の狭い世界に違いなかった。俺たちが吐き出した地球上の二酸化炭素が増えすぎて、俺たちは酸素ボンベを使わなければ生活できなくなっていた。しかし、緑人にはその必要がない。
なぜなら彼らは、体に葉緑体を持っているために、光合成ができるからだ。太陽の光と水、そして二酸化炭素さえあれば、それを酸素と自分のエネルギーに変えて生きられる。だから俺たちみたいに食べ物を摂取したり運動をする必要も無い。じっと日向ぼっこをして、水と栄養剤でも飲んでいれば生きていける。
酸素ボンベも今は、彼らが製造している。彼らが酸素を吐き出さなければ、俺たちは生きてはいけない。今思えば、俺が昔、日向ぼっこをしていた部下を叱ったのは大間違いだった。彼らは会社の役に立たなかったが、実は地球の役に立っていたのだ。
彼らは働く必要など無かったので、この国の国力はどんどん落ちていった。しかし、いったいこの国はどうなってしまうのだ・・・という心配も無かった。どの国も同じ状態だったからである。温厚な緑人には、他の国の利益を奪ったりする野心も無かった。当然のこと、地球上から戦争が無くなった。
俺たちは、国の利益のためだけに戦争を起こし、そのために人種差別をし、自分の生活を向上させるためだけに工業を発展させ、二酸化炭素を吐き出しまくった。
俺たちが人類のためによかれと思ってやってきた事は、ことごとく失敗だったのだ。
この世界に俺たちはもう必要ない・・・。
+
++
+++
++
+
会社を辞めて10年ほどたつ。天気のいい日に縁側で日向ぼっこするのが、今の俺の楽しみだ。今日も空気がうまい。
気持ちよくてウトウトとしていると、急に電話が鳴った。娘から子どもが生まれたという報告だった。目がくりっとしたかわいい赤ん坊らしい。
私の初孫なんだから、かわいいのは当たり前だ、そう言うと妻が笑った。
そして、手のひらはキレイな緑色だという・・・。当たり前だ。私の孫なんだから。
どうやら地球に緑が戻ったらしい。
(おしまい)
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
昔は葉緑体を持っていたが、今は失った生物がいるそうです。植物は人間のように移動したりしないから、太陽の光をエネルギーに変えた方が効率がいいとか。動物は体も大きいし、日向ぼっこしてるより何か食った方が早いというわけらしい。
はい、次。今日は秀吉の誕生日だそうです。
1537年2月6日 豐臣秀吉 生誕 = 1537ページ2段6行目 = 「地衡風」
なんだそりゃ・・・?
次のお題・・・「地衡風」
維管束植物の基本器官の一。枝や茎につき、主として同化・呼吸作用を行う。多様な変態を示し、機能や形態によって子葉・普通葉・包葉・鱗片(りんぺん)葉・花葉などに分ける。普通葉の形態は種によって異なり、分類上の手がかりとされる。
「―が茂る」
(初めての方は、本編の前に辞書連想「はじめに」を読んでください)
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まったく最近の若者は、何を考えているのかわからない。
仕事終わりに、たまに部下を誘って呑みに行こうとするのだが、絶対については来ない。そんなに俺は話がわからないようなオヤジだと思われているのだろうか。
部下たちの多くは、すこし注意しただけで機嫌を損ねる。この前も、休憩時間がとっくに終わっているのに屋上で居眠りしていたので注意したら、そいつは次の日会社を辞めてしまった。
こんな不思議な事もあった。朝、会社に向かう途中の公園で、スーツを着た若者がボーっと太陽の方を見ている。何を考えているのだろうと思って少し気になったが、時間も無かったのでその時は無視した。しかしその帰り道、彼は朝と同じ体勢のままでそこに立っていたのである。
あいつらはまったく俺の理解を超えている。本当に俺と同じ人間なのだろうか。いや、彼らこそ新人類と言うやつかもしれない。俺たちも若い頃は大人たちにそう言われたものだが、その俺たちが見ても突然変異としか思えない。何より、彼らの全身が「緑色」だという事がそれを表している。
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体に葉緑体を持った人間が生まれたのは今から20年ほど前だった。生まれながらにして、手のひらが少し緑がかっている事以外、他の乳児と何ら変わりなかったが、よく調べてみると、その緑色は植物と同じ「葉緑体」だという事がわかった。そして、同じような子どもが全国で同時期に何百人と生まれたことから、一時期マスコミが「緑色人種誕生」と騒ぎたて、差別的な状況に発展しそうにもなった。しかし、生活には全く支障がない私たちと同じ人間であり、差別を撤廃しようとする団体の運動のおかげもあって、世間の関心は次第に薄れていった。
しかしだ。彼らは大人になって、顔から足の先まですっかり緑になってしまった。最初は手のひらだけに存在した葉緑体が増え始め、ついには全身に広がったのだ。その姿は巨大な植物の茎としか言いようが無かった。
そして最近、彼らの姿がよく目立つようになっていた。実のところ、毎年、万単位で葉緑体を持った人間は生まれていたのだ。しかし、我が子が差別されてはいけないからと、親がひた隠しにして来たようである。当の彼らも、昔なら手のひらさえ隠していればよかったのだが、全身まで広がっては隠し様もなく、今は堂々と自分の緑をさらして歩いている。
そして今年に入り、彼らの出生率は俺たちを上回った。
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西暦2080年
この頃になって、彼らの生態が我々と違う事が判明してきた。
まず、彼らは夜行動できない。どんなに緊急の仕事があっても、残業せずに帰ってしまう。かといって、どこかへ遊びに行くわけではなく、家に帰って寝るのだという。うちの部下だけが特別変わっているわけでもなかったのだ。
そして、食べ物も変わっている。まず肉を食わない。基本的にベジタリアンだが、一週間何も食わずに水しか飲まない時があるという。
そして、怠け者である。俺たちは、仕事をして賃金を得る事でなんとか飯を食えているのだが、彼らには労働意欲が無い。まるで金など必要ないとでも言っているかのように簡単に会社を休む。会社では休憩時間が終わっても仕事になかなか戻ってこなかったりする怠けぶりだ。
俺たちはいつのまにか、ふたたび彼らを差別するようになっていた。
白人も黒人も黄色人種も緑人を生んでいたが、
白人も黒人も黄色人種も彼らを差別するようになっていた。
怠け者で、働くのが嫌いで、日向ぼっこが大好きな緑色人種たちを・・・。
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西暦2090年
俺はもうすぐ定年を迎える。これからは悠悠自適の生活が待っているはずなのだが、どうも心がはずまない。この緑人ばかりの世界で、俺はどうやって生きていけばいいのか。
緑人の数は増えに増えて、人類の半数以上になっていた。もうすでに差別は無かった。多数の側についた緑人は温和な性格で、人を傷つける事などなかったのだ。
しかし、俺たちにとっては、肩身の狭い世界に違いなかった。俺たちが吐き出した地球上の二酸化炭素が増えすぎて、俺たちは酸素ボンベを使わなければ生活できなくなっていた。しかし、緑人にはその必要がない。
なぜなら彼らは、体に葉緑体を持っているために、光合成ができるからだ。太陽の光と水、そして二酸化炭素さえあれば、それを酸素と自分のエネルギーに変えて生きられる。だから俺たちみたいに食べ物を摂取したり運動をする必要も無い。じっと日向ぼっこをして、水と栄養剤でも飲んでいれば生きていける。
酸素ボンベも今は、彼らが製造している。彼らが酸素を吐き出さなければ、俺たちは生きてはいけない。今思えば、俺が昔、日向ぼっこをしていた部下を叱ったのは大間違いだった。彼らは会社の役に立たなかったが、実は地球の役に立っていたのだ。
彼らは働く必要など無かったので、この国の国力はどんどん落ちていった。しかし、いったいこの国はどうなってしまうのだ・・・という心配も無かった。どの国も同じ状態だったからである。温厚な緑人には、他の国の利益を奪ったりする野心も無かった。当然のこと、地球上から戦争が無くなった。
俺たちは、国の利益のためだけに戦争を起こし、そのために人種差別をし、自分の生活を向上させるためだけに工業を発展させ、二酸化炭素を吐き出しまくった。
俺たちが人類のためによかれと思ってやってきた事は、ことごとく失敗だったのだ。
この世界に俺たちはもう必要ない・・・。
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会社を辞めて10年ほどたつ。天気のいい日に縁側で日向ぼっこするのが、今の俺の楽しみだ。今日も空気がうまい。
気持ちよくてウトウトとしていると、急に電話が鳴った。娘から子どもが生まれたという報告だった。目がくりっとしたかわいい赤ん坊らしい。
私の初孫なんだから、かわいいのは当たり前だ、そう言うと妻が笑った。
そして、手のひらはキレイな緑色だという・・・。当たり前だ。私の孫なんだから。
どうやら地球に緑が戻ったらしい。
(おしまい)
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昔は葉緑体を持っていたが、今は失った生物がいるそうです。植物は人間のように移動したりしないから、太陽の光をエネルギーに変えた方が効率がいいとか。動物は体も大きいし、日向ぼっこしてるより何か食った方が早いというわけらしい。
はい、次。今日は秀吉の誕生日だそうです。
1537年2月6日 豐臣秀吉 生誕 = 1537ページ2段6行目 = 「地衡風」
なんだそりゃ・・・?
次のお題・・・「地衡風」
- [2005/02/06 15:25]
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