ウカタマ!

辞書連想 第八回 「地衡風」 

ちこうふう  【地衡風】・・・

気圧傾度による力と、地球の自転によるコリオリの力とが釣り合って吹く風。
等圧線に平行に、気圧の低い方を左側に見て吹く。

(初めての方は、本編の前に辞書連想「はじめに」を読んでください)
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家に帰るまでの坂を登っていると、太ったおばさんがすごいスピードで俺の方に駆け下りて来た。

「とーめーてー」

どうやら勢いが着き過ぎて自分で止まることができないようである。
この坂は非常に急な事で有名で、隣のじいさんもよく転がってくる。

じいさんならこちらも止めようがあるが、このおばちゃんはどうにも大物だった。
このままではぶつかって俺も一緒に転がり落ちてしまうに違いなかった。
「止まらぬおばさんパワー」に負けないくらいの勢いで止めてなければ、こっちもやられる。
でも、どうすればいい。俺も走ってスピードをあげればいいのか?

しかし、仕事帰りの俺にこの坂を走って登っていくのは不可能に思えた。それに、あのスピードにかなうわけが無い。

考えあぐんで、ふと傍らを見ると、でっかいイヌの糞が落ちていた。

これだ。

もう考えている暇はない。おばさんはもう目の前だ。
俺は巨大なブツを右手でつかんで、おばさんの方へ目いっぱい差し出した。

おばさんは、俺の存在を肉眼で認めると少し安心した顔になったが、すぐに右手のアヴァンギャルドな物体に気がつくと、さっきよりもヒドイ表情に変わった。

「わー」

おばさんは、なんとかイヌのウンコから逃れようと俺を避けようとした。ウンコパワーの前におばさんも自制したのか、幾分か勢いは弱まったが、もう手遅れだった。

ぶつかる瞬間、俺は渾身の力を込めておばさんを投げ飛ばそうとした。しかし、勢いに負け、俺とおばさんとウンコは絡まりあって、横にあった家の方へ吹っ飛んだ。

+++

気が付くと病院のベッドの上だった。飛んで行くまでの記憶はあるが、そこから先は覚えていない。ぶつかった瞬間にどうやら気絶したようだ。

体が思うように動かないので、ナースコールを呼ぶことにした。
ベッドの脇のスイッチを押す。

すぐにやってきたナースの顔を見て俺はぶったまげた。

どう見ても白人だった。言葉も通じない。
片言の英語でどうにか話をしているうちに、全てが理解できた。
どうやら、俺はあのぶつかった勢いで飛ばされて、海を越えてアメリカまでやってきたらしい・・・。

あれ・・・?何か臭い・・・。

ふと横を見ると、おばさんがウンコまみれで眠っていた。

俺は再び気絶した。

++++

目が覚めた。

ここは・・・病院じゃない。ホテルだ。
・・・思い出した。俺はこのホテルでカンヅメにされていたんだった。

編集者が辞書の単語を使って毎週連載しませんかと提案して来たのが3ヶ月前。
最初は面白そうだと思って乗ったんだが、完全に失敗だった。
締め切りも間に合わず、こんな安ホテルに軟禁され、この2週間毎日、今週のお題「地衡風」について考えていた・・・。

辞書に載っていた「地衡風」についての説明を、もう少し詳しく言うと、こうである。

風というのは、気圧が高いほうから低い方へ吹く。これが「気圧傾度」の力による風。
そして、地球には自転がある。地球が回っていても、俺たちには回っているという実感は無い。
むしろ、空に浮かぶ星たちの方が動いているように見える。
同じように、これを大気の固まりで考えると、風が吹いているかのように見える。この見かけ上の力がコリオリの力。
その気圧傾度の力を打ち消す方向にコリオリの力が働くと、等圧線と同じ方向に風が吹く・・・・。

・・・なんじゃこりゃ。勉強すればするほど頭が痛くなる。
俺も意味がよくわからんのに、こんな説明して読者が喜ぶわけが無い。これについて話を膨らませるにしても、どうすればいいんだ。

ん?そうだ。この現象を、何かに例えて物語にしたらいいんじゃないか?
そういえばさっきの夢、どうも変な夢だと思ったが、まるで今回のお題そのままじゃないか。

気圧傾度をおばさん、コリオリの力を主人公にとして考えると・・・


風は気圧が高いほうから低い方へ吹く → おばさんが坂の上から降りてくる
見かけ上のコリオリの力が働く      → 見かけ上のウンコの力が働く
等圧線と同じ方向に風が吹く       → 緯度に沿った方向へ飛ばされる


おお!俺って天才!?
緯度に沿った方向、アメリカに飛ばされた事にすればいいじゃないか。病院で目が覚めたりして。
そうかー。夢って意外と役に立つんだなあ。2週間「地衡風」について考えてたせいで、夢に出たのかもしれない。

そういえばその先、どうなるんだっけ。ええと、思い出せない・・・。
なんだったっけ?

あれ・・・?何か臭い・・・。

ふと横を見ると、「気圧傾度」が「コリオリの力」まみれで眠っていた。

(おしまい)
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僕は下ネタは年に一回と決めているのですが、今年の分早速使いました。
コリオリの力、難しい。理科は苦手だ。
たぶん、間違ってるので受験生は本気にしないように。


はい、次。今日は何の日?

1185年2月19日
「屋島の戦い。一ノ谷の戦いで敗れて屋島に逃れた平家を源義經が奇襲。那須与一が船上の扇の的を射落とす」

義経。タイムリーですな。

1185年2月19日 = 1185ページ2段目19行目 = 「装束く」

「装束」じゃなくて、その動詞形らしい。よさげ・・・。

次のお題・・・「装束く」

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